建設業許可が必要な建築一式工事とは 定義から申請手続きまで完全ガイド
建築一式の許可を取れれば、自社でより大きな案件を受けられるかもしれない。でも「どこまでが建築一式に該当するのか」「専任技術者の実務経験は足りているのか」…不安の答えがあいまいなままでは一歩を踏み出せません。このガイドでは、その判断基準と手続きの流れを一つずつ整理し、迷わず申請を進められる道筋を示します。
建築一式工事の定義と建設業許可が必要となる範囲

建築一式工事とは何ですか?
答えは、「複数の専門工事を総合的に企画・指導・調整し、建築物全体を完成させる工事」です。
住宅やビル、学校、病院などで行われる総合的な建設がこれに当たり、いわゆる「元請」として全体管理を行うのが特徴です。
一方、内装工事・屋根工事など、建築物の一部のみを行う場合は建築一式工事ではなく、電気工事業や内装仕上工事業といった「専門工事業」に分類されます。
建築一式工事を施工するには、請負金額が一定額を超える場合に建設業許可が必要になります。
基準となるのは「軽微な工事」の範囲で、次のように定められています。
- 1件の請負代金が1,500万円未満
- もしくは延べ面積150㎡未満の木造住宅工事
このいずれかに該当すれば許可は不要ですが、それを超えると建設業許可が必要になります。
また、材料費が請負金額に含まれない場合は、その市場価格を合算して判断します。
これは建築基準法上の「建築物の工事」とも連動しており、構造・用途を問わず建築全体を扱う点が一式工事の特徴です。
以下のtableは、代表的な工事内容ごとの建設業許可の要否を示した早見表です。
| 工事内容 | 建設業許可の要否 |
|---|---|
| 木造住宅 延べ面積120㎡(請負1,000万円) | 不要(軽微な工事) |
| 木造住宅 延べ面積200㎡(請負2,000万円) | 必要 |
| 鉄骨造3階建て共同住宅 新築工事 | 必要(建築一式) |
| リフォーム工事で内装のみ500万円 | 専門工事(建築一式ではない) |
建築一式工事でできる解体作業も、建物全体を総合的に施工する一環であれば含めることができます。
ただし、解体のみを単独で行う場合は「解体工事業」の許可が別途必要です。
まとめると、建築一式の範囲は「複数専門工事を統括して建築物全体を完成させる」ものに限られ、規模が一定を超える場合には必ず建設業許可が求められます。
したがって、これを満たす工事を請け負う際には、工事金額や工事内容を正確に判定することが不可欠です。
建築一式工事に必要な建設業許可の種類と申請の流れ

建築一式工事を請け負う場合、どのような建設業許可が必要ですか?
答えは、工事の規模と請負の形態によって「一般建設業許可」または「特定建設業許可」に分かれます。
一般建設業許可は、小規模から中規模レベルの工事に適用され、一次下請に出す金額の総額が5,000万円未満(建築一式工事では8,000万円未満)の場合に使用されます。
一方、発注者から直接受けた工事で一次下請総額が5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上)となる場合は、特定建設業許可が必要です。
この基準は「元請」にのみ適用され、下請や二次下請は対象外です。
続いて、許可を管轄する機関にも2つの区分があります。営業所が1つの都道府県内にある場合は「都道府県知事許可」、複数都道府県に営業所がある場合は「国土交通大臣許可」となります。
つまり、一般・特定の区分と知事・大臣の区分は別軸です。特定だから大臣とは限りません。
以下のtableは、代表的な許可種別の違いを整理したものです。
| 許可種類 | 適用条件 | 審査機関 | 審査期間 |
|---|---|---|---|
| 一般建設業許可 | 一次下請総額5,000万円未満(建築一式8,000万円未満) | 都道府県知事/国土交通大臣 | 約1か月 |
| 特定建設業許可 | 一次下請総額5,000万円以上(建築一式8,000万円以上) | 都道府県知事/国土交通大臣 | 約1か月(書類確認を含む) |
申請手続きの流れは次の通りです。
- 要件確認:営業所・技術者・経営体制・財務要件などを満たしているか判定します。
- 書類作成:履歴事項全部証明書、決算書類、専任技術者の証明書などを揃えます。
- 提出・審査:本店所在地を管轄する都道府県または国交省へ申請し、形式審査・実質審査が行われます。
- 許可証交付:不備がなければおおむね1か月前後で許可が発行されます。
許可取得のチェックリストとして、特にミスが多いのが「専任技術者の資格証明」と「経営体制の実態確認」です。
書類整備を正確に行えば、群馬県を含む地方自治体でも1か月ほどで完了するのが一般的です。
建築一式工事の許可取得に必要な経営・技術体制の要件

建築一式工事の建設業許可を取得するには、まず「経営体制」と「技術体制」の両方が適正に整っていることが求められます。
この2つの柱がそろっていなければ、どんなに資金や設備があっても許可は下りません。
経営体制 ― 経営業務の管理責任者要件の見直し
経営業務の管理責任者(いわゆる「経管」)の個人要件は、令和2年の法改正で廃止されました。
それ以前は「5年以上の経営経験」など個人の履歴で判断していましたが、現在は「常勤役員等とその補佐者を含む適正な経営体制」が審査ポイントになっています。
要するに、「組織として経営を継続できる実態」があるかどうかが重視されます。
社長一人ではなく、経営を支える補佐者や事務体制があるか、そして社会保険加入を含めたコンプライアンス環境が整備されているかが確認されます。
この確認は、申請書類の「様式第7号の2」で詳細に記載して提出する必要があります。
技術体制 ― 専任技術者と管理技術者の資格要件
営業所ごとに必ず専任技術者を配置しなければなりません。
建築一式における専任技術者の資格は、一般建設業と特定建設業で異なります。
一般建設業は、二級建築士・2級建築施工管理技士などでも要件を満たせますが、特定建設業の場合は原則として一級建築士または1級施工管理技士が必要です。
また、特定ではこれら資格の代わりに「大規模工事で2年以上の指導監督的実務経験」を持つ者も認められます。
以下のtableで、各許可区分ごとの資格・実務要件を整理します。
| 区分 | 必要資格 | 実務経験年数 | 管理技術者の選定基準 |
|---|---|---|---|
| 一般建設業 | 一級建築士/二級建築士/1級・2級建築施工管理技士 | 指定学科卒+3〜5年/実務10年 | 主任技術者として施工管理ができる者 |
| 特定建設業 | 1級建築士/1級建築施工管理技士 | 指導監督的実務経験2年以上 | 監理技術者として配置可能な者 |
主任技術者・監理技術者の配置基準も工事ごとに定められており、
元請工事で請負金額が基準額を超える場合は、監理技術者の常駐が義務です。
資格だけでなく実務経験の証明書類(工事請負契約書、注文書、請求書など)を正確に整備して提出することが求められます。
施工管理技士資格を活用すれば、要件を効率的に満たせる場合が多く、許可審査時にも信頼性の高い証拠として評価されます。
この経営・技術体制が整備できていれば、あとは財務的信用力の確認へと進むことができます。
財務要件と必要書類:建築一式工事許可申請の実務ポイント

建設業許可(建築一式工事)を取得する際、最も重視されるのが「財務要件」と「添付書類の正確性」です。
まず財務要件についてです。一般建設業では、自己資本500万円以上または同額以上の資金調達能力があることが必要となります。
これは、営業年数が短い新設法人でも、銀行預金や融資枠証明などで実質的な資金力を示せばクリアできる基準です。
一方、特定建設業ではより厳格な金融要件が課せられます。自己資本4,000万円以上、流動比率75%以上、欠損の額が資本金の20%以内といった基準が定められており、単純に資本金の額だけでは判断されません。
決算書の内容が純資産を中心に審査されるため、粉飾や短期借入による一時的な資金確保では不合格となることもあります。
したがって、許可申請前には会計士により貸借対照表の整合性を確認しておくのが安心です。
財務書類が整えば、次に重要なのが提出すべき添付書類です。
営業年数や実績証明、専任技術者の経歴確認を行うため、必ず以下の6種類を準備します。
- 履歴事項全部証明書(会社の登記内容を確認)
- 直近の決算書3期分(財務状況と営業実績の確認)
- 納税証明書(法人税・消費税の適正納付を確認)
- 残高証明書や融資枠証明(資金調達能力の裏付け)
- 専任技術者の資格証明書・実務経験証明書(工事能力の確認)
- 社会保険加入状況証明および誓約書(法令遵守体制の確認)
特に「実務経験を証明する書類例」としては、請負契約書・注文書・請求書などの写しが有効です。
施工内容が建築一式工事と明確にわかる資料を添付しなかった場合、経歴証明が不足として差戻しになるケースが少なくありません。
書類不備による却下事例では、資本金証明を誤って添付したり、残高証明の有効期限切れ、納税証明書の税目漏れが多く見られます。
行政庁は「形式より実質」を重視しますが、書類の整合性が取れていない場合は受理されないこともあります。
財務面と証明書面の双方を整備し、整った添付書類一覧を基に提出することで、審査は格段にスムーズに進行します。
建築一式工事許可の費用と期間、行政書士への依頼判断

建築一式工事の建設業許可を取得する際、最初に確認すべきは「どのくらい費用と期間がかかるのか」という点です。
まず、申請自体に必要な行政手数料は知事許可で約9万円、大臣許可では約15万円となっています。
この金額は法律で定められており、自治体ごとに大きな差はありません。
次に、行政書士へ書類作成や審査対応を依頼する場合の費用です。
一般的には10万~30万円前後が相場で、会社規模や業種数、証明書類の有無などにより変動します。
自力で申請することも不可能ではありませんが、実務上は証拠書類の整合確認や要件判断に専門性が求められるため、初回申請は専門家に依頼するケースが多いです。
以下のtableは、主要な費用構成をまとめた概算です。
| 項目 | 平均費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 行政手数料(知事/大臣) | 約9万円/約15万円 | 法定費用・申請時に納付 |
| 行政書士報酬 | 10~30万円前後 | 申請内容・業種数で変動 |
| 証明書・印紙代など実費 | 5千~1万円前後 | 登記簿・証明書類取得費用 |
審査期間の目安は、おおむね1か月程度です。
ただし、書類に不備があった場合や補正指示が入った場合は2〜3週間ほど延びることがあります。
群馬県をはじめとする地方自治体では、書類の事前チェックを行うことで、スムーズに進行できる傾向があります。
行政書士を選ぶ際は、建設業許可に特化している事務所かどうかを必ず確認しましょう。
複数業種の要件整理や実務経験証明の組み立てなど、チェックポイントが多い分野であるため、経験豊富な専門家に依頼することが許可取得への最短ルートです。
建設業許可を取得すると、次のような実務的メリットがあります。
- 公共工事や官公庁案件の入札に参加できるようになります。
- 銀行や取引先からの資金調達・与信評価が向上します。
- 元請・下請いずれの立場でも信頼性が高まり、受注機会が拡大します。
こうした効果を踏まえると、行政書士への依頼費用は単なる経費ではなく、企業としての信用力を高める投資といえます。
許可取得後の維持管理と法令遵守:建築一式工事業者の実務
建設業許可(建築一式工事)を取得した後も、事業者は継続的に手続きを行い、法令を遵守し続ける義務があります。
最も基本となるのが許可の更新と有効期間です。許可の有効期間は5年間で、満了日の3か月前から更新申請が可能です。
また、毎事業年度の決算終了後4か月以内に「決算変更届」を提出することが法定義務として課されています。
これは、経営状況の透明性を確保し、許可後も健全な経営を維持しているか行政が確認する目的があります。
以下のtableでは、建築一式工事業者が定期的に行う主な届出と提出期限、関連する法令を整理しました。
| 主な届出 | 提出期限 | 関連法令 |
|---|---|---|
| 決算変更届 | 決算終了後4か月以内 | 建設業法 第11条 |
| 変更届(役員・技術者・営業所など) | 変更後30日以内 | 建設業法 第11条の2 |
| 許可更新申請 | 有効期間満了の30日前まで | 建設業法 第3条 |
| 経営事項審査(経審)申請 | 入札参加申請前に随時 | 建設業法 第27条の23 |
事業を継続するには、継続的な法令遵守体制の整備が不可欠です。
特に重要なのが労働保険・社会保険加入義務であり、未加入のままだと許可取り消しや経審評点の減点対象となることがあります。
雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金の加入状況は、申請書類にも記載が求められるため常に最新状態を維持する必要があります。
あわせて、安全衛生管理体制の整備も法律上の責務として位置づけられています。
現場の労働安全衛生管理者の選任や、安全パトロール実施、災害防止計画の立案などを通じて、施工現場の安全性を確保しなければなりません。
さらに、公共工事への参加を考える場合は経営事項審査(経審)の受審が不可欠です。
経審では、経営規模・技術力・社会性・財務健全性が数値化され、入札ランクを決定する基礎資料となります。
この評点は決算内容や技術者保有資格、安全・保険加入状況などに基づいて評価されます。
こうした届出と管理を正確に継続することが、建築一式工事業としての信用を維持し、次回更新や公共案件参入時にも高評価を得るための鍵となります。
建設 業許可 建築 一式に関するまとめと次のステップ
建築一式工事の許可を取得するためには、まず「どの業種区分に該当するのか」を正しく理解することが重要です。建築一式は、複数の専門工事を総合的にマネジメントする工事であり、建築物全体を請け負う責任の大きな業種です。そのため、経営業務の管理責任者の経歴、専任技術者の資格や実務経験、そして一定の財務基盤が求められます。
特に専任技術者の要件では、建築施工管理技士などの国家資格を有する場合は比較的スムーズに証明が可能ですが、実務経験で申請する場合は証明資料の一つひとつが審査対象となるため慎重な準備が必要です。許可あり・許可なしの企業で積んだ経験の扱いが異なる点にも注意が必要です。
もし「自社で書類を整えられるか不安」「どこまでが建築一式工事になるのか線引きが難しい」と感じる場合は、早めに専門家のサポートを受けることが望ましいです。経験豊富な行政書士であれば、過去の案件内容や書類状況をもとに最適な方針を提案し、申請の成否に直結する部分を確実に整える手助けをしてくれます。
今回の内容を通して、「自社がどの区分で許可を取るべきか」「専任技術者として誰が該当するのか」「どんな書類を準備すべきか」という判断基準が明確になったはずです。手続きの複雑さや境界の曖昧さに悩んでいた方も、要件を整理し一歩ずつ進めることで、確実に許可取得に近づけますよ。


